乃木坂浪漫 ep04 12.04.05 桜井玲香 × 太宰治《女生徒》


乃木坂浪漫 2012年4月5日 ep04 桜井玲香
开场白:深川麻衣
朗读作品:太宰治《女生徒》

朗读部分:

「私たちみんなの苦しみを、ほんとに誰も知らないのだもの。いまに大人になってしまえば、私たちの苦しさ侘びしさは、可笑しなものだった、となんでもなく追憶できるようになるかも知れないのだけれど、けれども、その大人になりきるまでの、この長い厭な期間を、どうして暮していったらいいのだろう。誰も教えて呉れないのだ。ほって置くよりしようのない、ハシカみたいな病気なのかしら。でも、ハシカで死ぬる人もあるし、ハシカで目のつぶれる人だってあるのだ。放って置くのは、いけないことだ。私たち、こんなに毎日、鬱々したり、かっとなったり、そのうちには、踏みはずし、うんと堕落して取りかえしのつかないからだになってしまって一生をめちゃめちゃに送る人だってあるのだ。また、ひと思いに自殺してしまう人だってあるのだ。そうなってしまってから、世の中のひとたちが、ああ、もう少し生きていたらわかることなのに、もう少し大人になったら、自然とわかって来ることなのにと、どんなに口惜しがったって、その当人にしてみれば、苦しくて苦しくて、それでも、やっとそこまで堪えて、何か世の中から聞こう聞こうと懸命に耳をすましていても、やっぱり、何かあたりさわりのない教訓を繰り返して、まあ、まあと、なだめるばかりで、私たち、いつまでも、恥ずかしいスッポカシをくっているのだ。」

「明日もまた、同じ日が来るのだろう。幸福は一生、来ないのだ。それは、わかっている。けれども、きっと来る、あすは来る、と信じて寝るのがいいのでしょう。わざと、どさんと大きい音たてて蒲団にたおれる。ああ、いい気持だ。蒲団が冷いので、背中がほどよくひんやりして、ついうっとりなる。幸福は一夜おくれて来る。ぼんやり、そんな言葉を思い出す。」

「幸福は一夜おくれて来る。幸福は、――」

「眠りに落ちるときの気持って、へんなものだ。鮒ふなか、うなぎか、ぐいぐい釣糸をひっぱるように、なんだか重い、鉛みたいな力が、糸でもって私の頭を、ぐっとひいて、私がとろとろ眠りかけると、また、ちょっと糸をゆるめる。すると、私は、はっと気を取り直す。また、ぐっと引く。とろとろ眠る。また、ちょっと糸を放す。そんなことを三度か、四度くりかえして、それから、はじめて、ぐうっと大きく引いて、こんどは朝まで。」

乃木坂浪漫 ep03 12.04.04 白石麻衣 × 田山花袋《蒲団》


乃木坂浪漫 2012年4月4日 ep03 白石麻衣
开场白:深川麻衣
朗读作品:田山花袋《蒲団》

朗读部分:

「さびしい生活、荒涼たる生活は再び時雄の家に音信おとずれた。子供を持てあまして喧やかましく叱しかる細君の声が耳について、不愉快な感を時雄に与えた。」
「生活は三年前の旧むかしの轍わだちにかえったのである。」
「五日目に、芳子から手紙が来た。いつもの人懐なつかしい言文一致でなく、礼儀正しい候文そうろうぶんで、」

「時雄は雪の深い十五里の山道と雪に埋れた山中の田舎町とを思い遣やった。別れた後そのままにして置いた二階に上った。懐かしさ、恋しさの余り、微かすかに残ったその人の面影おもかげを偲しのぼうと思ったのである。武蔵野むさしのの寒い風の盛さかんに吹く日で、裏の古樹には潮の鳴るような音が凄すさまじく聞えた。別れた日のように東の窓の雨戸を一枚明けると、光線は流るるように射し込んだ。机、本箱、罎びん、紅皿べにざら、依然として元のままで、恋しい人はいつもの様に学校に行っているのではないかと思われる。時雄は机の抽斗ひきだしを明けてみた。古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。時雄はそれを取って匂においを嗅かいだ。」

「女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟えりの天鵞絨びろうどの際立きわだって汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅かいだ。」
「性慾と悲哀と絶望とが忽たちまち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。」
「薄暗い一室、戸外には風が吹暴ふきあれていた。」