乃木坂浪漫 ep86 12.08.28 和田まあや × 寺田寅彦『糸車』


乃木坂浪漫 ep86 12.08.28 和田まあや
开场白:斎藤ちはる
朗读作品:寺田寅彦『糸車』

身为物理学家、又同为夏目漱石的资深门徒,拥有多重身份而为人所熟知的寺田寅彦,于昭和10年发表的随笔。

大概(たいがい)車の取っ手を三廻す間に左の手が延び切って数十センチメートルの糸が紡がれ、それを巻き取ってから、また同じ事を繰返(くりかえ)す。そういう操作のために糸車の音に特有なリズムが生ずる。それを昔の人は「ビーン、ビーン、ビーン、ヤ」という言葉で形容した。
「ビーン」の部で鉄針とそれにつながる糸とが急速な振動(しんどう)をしているために一種の楽音が発生するが、巻き取るときはそうした振動が中止するので音のパウゼが来るわけである。要するにこの四拍子(よんぴょうし)の、およそ考え得らるべき最も簡単なメロディーがこの糸車という「楽器」によって奏せられるのである。 
昔の下級士族の家庭婦人は糸車を回し手機を織ることを少しも(はず)かしい賤業(せんぎょう)とは思わないで、つつましい(ほこ)りとしあるいはむしろ最大の楽しみとしていたものらしい。ピクニックよりもダンスよりも、婦人何々会で()け回るよりもこの方が(はるか)に身に()みて本当に面白いであろうということは、「物を作り出すことの喜び」を解する人には現代でもいくらか想像ができそうである。
シューベルトの歌曲「糸車のグレーチヘン」は六拍子であって、その伴(ばんそう)のあの特徴(とくちょう)ある六連音の波のうねりが糸車の廻転を象徴しているようである。これだけから見ても西洋の糸車と日本の糸車とが全くちがった詩の世界に属するものだということがわかると思う。
こんなことを考えていると、自分がたまたま貧乏(びんぼう)士族の子と生まれて田園の自然の間に育ったというなんの誇りにもならないことが世にも仕合わせな運命であったかのような気もしてくるのである。