乃木坂浪漫 ep83 12.08.22 若月佑美 × 森鴎外『阿部一族』


乃木坂浪漫 ep83 12.08.22 若月佑美
开场白:星野みなみ
朗读作品:森鴎外『阿部一族』

以江户时代肥後藩真实发生的事实为基础进行创作的短篇小说。

又七郎は平生(へいぜい)阿部弥一右衛門が一家と心安くして、主人同志は(もと)より、妻女までも互いに往来していた。中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛は(やり)が得意で、又七郎も同じ技を(たし)むところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手でも(それがし)には(かな)うまい」、「いやそれがしがなんでお手前に負けよう」などといっていた。
そこで先代の殿様の病中に、弥一右衛門が殉死を願って許されぬと聞いた時から、又七郎は弥一右衛門の胸中を察して気の毒がった。
ある日又七郎が女房に言い附けて、夜更けてから阿部の屋敷へ見舞いに遣った。阿部一族は(かみ)(そむ)いて籠城めいたことをしているから、男同志は交通することが出来ない。(しか)るに最初からの行掛りを知っていて見れば、一族のものを悪人として憎むことは出来ない。ましてや年来懇意にした間柄である。婦女の身として密かに見舞うのは、よしや後日に発覚したとて申訳の立たぬことでもあるまいという考えで、見舞いには遣ったのである。女房は夫の(ことば)を聞いて、喜んで心尽くしの品を取揃えて、夜ふけて隣へおとずれた。これもなかなか気丈な女で、もし後日に発覚したら、罪を自身に引き受けて、夫に迷惑は掛けまいと思ったのである。
阿部一族の喜は非常であった。世間は花咲き鳥歌う春であるのに、不幸にして神仏にも人間にも見放されて、かく籠居(ろうきょ)している我々である。それを見舞うて遣れという夫も夫、その言附けを守って来てくれる妻も妻、実に難有(ありがた)い心掛けだと、心(しん)から感じた。子供たちは門外へ一(あし)も出されぬので、不断 優しくしてくれた柄本の女房を見て、右左から取り縋って、容易く放して帰さなかった。

乃木坂浪漫 ep82 12.08.21 深川麻衣 × 夢野久作『押絵の奇蹟』


乃木坂浪漫 ep82 12.08.21 深川麻衣
开场白:星野みなみ
朗读作品:夢野久作『押絵の奇蹟』

对众多侦探小说作家带来影响、发表在1929年『新青年』1月号的作品。

忘れも致しませぬ、あの丸の内演芸館内の演奏場で、私は拙ないピアノの独奏を致しておりました二日目の事でございました。明治音楽会の幹事をしておられます松富(まつとみ)さんが、楽屋の入口でヒョイと私の肩をおたたきになりまして、こんな事を云われました。
「シッカリおやんなさいよ。名優の菱田新太郎君が昨日からたった一人であの一番うしろの席に来ておられるのですよ、新太郎君は女嫌いと西洋音楽嫌いで有名な人なんですからね。それが、貴女(あなた)の演奏をききに来て、あなたの番が済むとサッサと帰って行かれるのですからね。」
今まで想像にだけ描いておりました貴方様と私との間の運命のつながりが、あまりにもハッキリと現実にあらわれかかって参りました恐ろしさに、私はもう夢中になってしまいました。
そのお姿を楽譜(がくふ)の蔭からチラリと見ました時の私の胸の(とどろ)きは、どんなでございましたでしょう。
私はあの時に、色眼鏡をお外しになった貴方様のお顔を拝見致しますと一緒に、もすこしで、
「あっ。お母様……」
と叫びそうになったのでございます。そんなにまで貴方様のお顔が私の亡くなったお母様に似ておいで遊ばしたからでございます。
申し上げたらビックリ遊ばすか存じませぬが、私の右の背中から、右の乳の下へ抜けとおっております刀の刺し傷でございます。この傷の痕と、それにまつわっております私の生涯の秘密ばかりは、他人様に気付かれまいと思いましたために、お医者様にも見せずに秘め隠して参ったのでございますが、只今となりましては、あなた様にだけは、どうしてもお打ち明け申し上げなければならぬ時節が参りましたものと存じているのでございます。

乃木坂浪漫 ep81 12.08.20 井上小百合 × 葛西善蔵『湖畔手記』

乃木坂浪漫 ep81 12.08.20 井上小百合
开场白:星野みなみ
朗读作品:葛西善蔵『湖畔手記』

葛西善蔵以自身为原型所创造的短篇小说。

とうとうこゝまで逃げて來たと云ふ訳だが――それは實際悲鳴を揚げながら――の気持ちだつた。がさて、これから一体どうなるだろう、どうするつもりなんだろうと、旅館の二階の椅子から、陰欝な色の湖面を眺めやって、毎日幾度となく自問自答の溜息をついた。よくもこゝまで上って來たものではある、が今度はどうして下れるか、自分の蟇口は來る途中でもう空になっていた。どこに拾円の金を頼んでやれる宛はないのである。心細さの余り、自分はおゝ妻よ! と、郷里の妻のことを思ひ浮べて、幾度か胸の中に叫んだ。でこの手記は、大体妻へ宛てて書くつもりだが、が特に何かの理由を考え出したと云う訳では無論ないのだ。
白根山一帶を蔽うて湧き立つ入道雲の群れは、動くともなく、こちらを圧しるように寄せ來つつある。そして湖面は死のように憂欝だ。自分の胸は弱い。そして痛む。人、境、倶不奪(ともにうばわず)――なつかしき、遠い郷里の老妻よ! 自分は今ほんとうに泣けそうな気持ちだ。山も、湖水も、樹木も、白い雲も、そうだ、彼等は無関心過ぎる!
雲の山が、いつの間にか、群山を圧してしまっている。湖水は夕景の色に変わっている。自分は少し散歩して來よう。……
白根山、雲の海原夕燒けて、妻し思へば、胸いたむなり。
秋ぐみの、紅きを噛めば、酸く澁く、タネあるもかなし、おせいもかなし。

乃木坂浪漫 ep80 12.08.16 永島聖羅 × 芥川龍之介『手巾』

乃木坂浪漫 ep80 12.08.16 永島聖羅
开场白:宮澤成良
朗读作品:芥川龍之介『手巾』

1916年10月在『中央公論』上发表的短篇小说。
先生は、婦人の手が、はげしく、ふるへているのに気がついた。ふるえながら、それが感情の激動(げきどう)()いて(おさ)えようとするせいか、膝の上の手巾を、両手で()かないばかりに(かた)く、握っているのに気がついた。そうして、最後に、(しわ)くちやになった(きぬ)の手巾が、しなやかな指の間で、さながら微風(びふう)にでもふかれているやうに、(ぬひとり)のある(ふち)を動かしているのに気がついた。――婦人は、顔でこそ笑つていたが、実はさっきから、全身で泣いていたのである。
それから、二時間の(のち)である。先生は、湯にはいって、晩飯(ばんめし)をすませて、食後の桜実(さくらんばう)をつまんで、それからまた、楽々(らくらく)と、ヴエランダの籐椅子(とういす)に腰を下した。
  例のストリントベルクも、手にはとってみたものの、まだ一頁(いちページ)も読まないらしい。それも、そのはずである。――先生の頭の中は、西山篤子(あつこ)夫人のけなげな振舞(ふるまい)で、未だに一ぱいになっていた。
先生は、飯を食いながら、(おく)さんに、その一部始終(しじゅう)を、話して聞かせた。そうして、それを、日本の女の武士道(ぶしどう)だと賞讃(しょうさん)した。日本と日本人とを愛する奥さんが、この話を聞いて、同情しないはずはない。先生は、奥さんに熱心な()き手を見出(みいだ)した事を、満足に思った。
先生は、今まで閑却(かんきゃく)されていた本に、気がついて、さっき入れて置いた名刺を印(しるし)に、読みかけた頁を、開いて見たストリントベルクは言う。
――私の若い時分(じぶん)、人はハイベルク夫人の、多分巴里(パリ)から出たものらしい、手巾(はんけち)のことを話した。それは、顔は微笑(びしょう)していながら、手は手巾を二つに()くと言う、二重の演技であった、それを我等は今、臭味(メツツヘン)と名づける。……