乃木坂浪漫 ep95 12.09.12 生田絵梨花 × 菊池寛『勝負事』

乃木坂浪漫 ep95 12.09.12 生田絵梨花
开场白:若月佑美
朗读作品:菊池寛『勝負事』

以痴迷麻将、将棋、赛马而广为人知的作者,写下的以赌博为主题的短篇小说。

改心をしてからは、(さすが)に二度と再び勝負事はしなかったのです。もし、したことがあったならば、それは只一度、次にお話しするような時だけだろうとの事です。
それは、何でも祖父が死ぬ三月位前の事です。秋の小春日和の午後に、私の母が田で働いて居る祖父に、お八つの茶を持って行ったことがあるのです。見ると、稲を刈った後の田を、鋤すき返しているはずの祖父の姿が見えないのです。多分田の向うの藁堆(わらづみ)の陰で、日向ぼっこをしているのだろうと思って、其の方へ行ってみますと、果して祖父の聲が聞こえて来るのです。
『今度は、俺が勝だ』と、云いながら祖父は聲高く笑ったそうです。屹度、古い賭博打ちの仲間が来て、祖父を唆そそのかして何かの勝負をして居るに違いない、と思うと、手も足も付けられなかった祖父の、昔の生活が頭の中に浮んできて、ぞっと身が顫うほど、情なく思ったそうです。せっかく慎んで居てくれたのにと思うと、一體祖父を誘った相手は、何處の何奴だろうと、そっと足音を忍ばせて近づいてみたそうです。
見ると、ぽかぽかと日の當って居る藁堆の陰で、祖父とその五つになる孫とが、相対して蹲って居たそうです。何をしているのかと思ってじっと見ていると、祖父が積み重っている藁の中から、一本の藁を抜いたそうです。すると、孫が同じように、一本の藁を抜き出したそうです。二人はその長さを比べました。祖父が抜いた方が一寸ばかり長かったそうです。
『今度も、わしが勝ちじゃぞ、ははははは』と、祖父は前よりも、高々と笑ったそうです。
それを見て居た母は、祖父の道楽のために受けたいろいろの苦痛に対する恨みを忘れて、心からこの時の祖父をいとしく思ったとのことです。
祖父が最後の勝負事の相手をしていた孫が、私であることは申すまでもありません」

 

乃木坂浪漫 ep94 12.09.11 桜井玲香 × 林芙美子『晩菊』

乃木坂浪漫 ep94 12.09.11 桜井玲香
开场白:若月佑美
朗读作品:林芙美子『晩菊』

昭和23年,作者45岁时发表的杰作短篇。

夕方、五時頃うかゞいますと云う電話であったので、きんは、一年ぶりにねえ、まァ、そんなものですかと云った心持ちで、電話を離れて時計を見ると、まだ五時には二時間ばかり間がある。まずその間に、何よりも風呂へ行つておかなければならないと、女中に早目な、夕食の用意をさせておいて、きんは急いで風呂へ行った。別れたあの時よりも若やいでいなければならない。けっして自分の老いを感じさせては敗北だと、きんはゆっくりと湯にはいり、帰って来るなり、冷蔵庫の氷を出して、こまかくくだいたのを、二重になったガーゼに包んで、鏡の前で十分ばかりもまんべんなく氷で顔をマッサアジした。
一人寝の折、きんは真夜中に眼が覚めると、娘時代からの男の数を指でひそかに折り数えてみた。あのひととあのひと、それにあのひと、あゝ、あのひともある……でも、あのひとは、あのひとよりも先に逢っていたのかしら……それとも、後だったかしら……きんは、まるで数え歌のように、男の思い出に心が煙たくむせて来る。思い出す男の別れ方によって涙の出て来るような人もあった。
田部からの電話はきんにとっては思いがけなかったし、上等の葡萄酒にでもお眼にかゝったような気がした。田部は、思い出に吊られて来るだけだ。昔のなごりが少しは残っているであらうかと云った感傷で、恋の焼跡を吟味しに来るようなものなのだ。草茫々の瓦礫の跡に立って、只、あゝと溜息だけをつかせてはならないのだ。年齢や環境に(さか)の貧しさもあってはならないのだ。慎み深い表情が何よりであり、雰囲気は二人でしみじみと没頭出来るようなたゞよいでなくてはならない。自分の女は相変らず美しい女だったと云う後味のなごりを忘れさせてはならないのだ。きんはとゞこおりなく身支度が済むと、鏡の前に立って自分の舞台姿をたしかめる。万事抜かりはないかと……。

乃木坂浪漫 ep93 12.09.10 白石麻衣 × 芥川龍之介『枯野抄』

乃木坂浪漫 ep93 12.09.10 白石麻衣
开场白:若月佑美
朗读作品:芥川龍之介『枯野抄』

该作品描写了在弟子的陪伴下停止呼吸的松尾芭蕉临终前的情景。

芭蕉の床を囲んでいた一同の心に、(いよいよ)と云う緊張した感じが咄嗟(とっさ)(ひらめ)いたのはこの時である。が、その緊張した感じと前後して、一種の弛緩(しくわん)した感じが――云わば、来る()きものが遂に来たと云う、安心に似た心もちが、通りすぎた事も(また)争われない。唯、この安心に似た心もちは、微妙な性質のものであったからか、現にここにいる一同の中では、最も現実的な其角でさえ、折から顔を見合せた木節と、(ぎわ)どく相手の眼の中に、同じ心もちを読み合った時は、流石(さすが)にぎよつとせずにはいられなかったのであろう。彼は(あわただ)しく視線を(わき)()らせると、さり気なく羽根楊子をとりあげて、
「では、御先へ」と、隣の去来に挨拶した。実を云うと彼は、こうなるまでに、師匠と今生(こんじょう)(わかれ)をつげると云う事は、さぞ悲しいものであろう位な、予測めいた(かんがえ)もなかった訳ではない。が、こうして愈末期(まつご)の水をとって見ると、自分の実際の心もちは全然その芝居めいた予測を裏切って、如何(いか)にも冷淡に澄みわたっている。のみならず、更に其角が意外だつた事には、文字通り骨と皮ばかりに痩せ衰へた、致死期の師匠の不気味な姿は、殆面(ほとんどおもて)を背けずにはいられなかった程、烈しい嫌悪の情を彼に起させた。支考が枕もとへ進みよった。が、この皮肉屋を以て知られた東花坊には周囲の感情に誘いこまれて、(いたずら)に涙を落すような繊弱な神経はなかったらしい。
たった今まで、刻々臨終に近づいて行く師匠を、どこかその経過に興味でもあるような、観察的な眼で眺めていた。もう一歩進めて皮肉に考へれば、事によるとその眺め方の背後には、他日自分の筆によって書かるべき終焉記(しゅうえんき)の一節さえ、予想されていなかったとは云えない。
自分たち門弟は皆師匠の最後を悼まずに、師匠を失った自分たち自身を悼んでいる。

乃木坂浪漫 ep92 12.09.06 星野みなみ × 二葉亭四迷『浮雲』

乃木坂浪漫 ep92 12.09.06 星野みなみ
开场白:若月佑美
朗读作品:二葉亭四迷『浮雲』

这篇长篇小说,宣告了言文一致的文体为主的日本近代小说的开端,是四迷的代表作。

日曜日は近頃に無い天下(てんか)()れ、風も穏かで(ちり)()たず、暦を()って見れば、旧暦で菊月初旬(きくづきはじめ)という十一月二日の事ゆえ、物観遊山(ものみゆさん)には持って来いと云う日和(ひより)
 園田(そのだ)一家(いっけ)の者は朝から観菊行(きくみゆき)の支度とりどり。
文三(ぶんぞう)拓落失路(たくらくしつろ)の人、仲々(もっ)観菊(きくみ)などという空は無い。それに昇は花で言えば今を春辺(はるべ)と咲誇る桜の身、此方(こっち)は日蔭ひかげの枯尾花(かれおばな)到頭(どうせ)楯突く事が出来ぬ位なら打たせられに行くでも無いと、境界(きょうがい)()れて(ひが)みを起し、一昨日(おとつい)昇に誘引(さそわれ)た時既にキッパリ(ことわ)ッて行かぬと決心したからは、人が騒ごうが騒ぐまいが隣家(となり)疝気(せんき)関繋(かけかまい)のない(はなし)、ズット澄していられそうなもののさて居られぬ。嬉しそうに人のそわつくを見るに付け聞くに付け、またしても昨日きのうの我が憶出(おもいいだ)されて、五月雨(さみだれ)頃の空と湿める、嘆息もする、面白くも無い。
ヤ面白からぬ。文三には昨日お勢が「貴君(あなた)もお(いで)なさるか」ト尋ねた時、行かぬと答えたら、「ヘーそうですか」ト平気で澄まして落着払ッていたのが面白からぬ。文三の心持では、成ろう事なら、行けと勧めて貰もらいたかッた。それでも尚なお強情を張ッて行かなければ、「貴君(あなた)と御一所でなきゃア私も()しましょう」とか何とか言て貰いたかッた……
行くも(いや)なり留まるも(いや)なりで、気がムシャクシャとして肝癪(かんしゃく)が起る。誰と云て取留めた相手は無いが腹が立つ。何か火急(かきゅう)要事(ようじ)が有るようでまた無いようで、無いようでまた有るようで、立てもいられず坐すわってもいられず、どうしてもこうしても落着かれない。