乃木坂浪漫 ep96 12.09.13 伊藤寧々 × 織田作之助『馬地獄』

乃木坂浪漫 ep96 12.09.13 伊藤寧々
开场白:市來玲奈
朗读作品:織田作之助『馬地獄』

作者于1942年在『文学界』上发表的处女作品。

東より順に大江橋(おおえばし)渡辺橋(わたなべばし)田簑橋(たみのばし)、そして船玉江橋まで来ると、橋の感じがにわかに見すぼらしい。
ともかく、陰気だ。ひとつには、この橋を年中日に何度となく(わた)らねばならぬことが、さように感じさせるのだろう。
近くに倉庫の多いせいか、実によく荷馬車が通る。たいていは馬の(あし)が折れるかと思うくらい、重い荷を積んでいるのだが、傾斜があるゆえ、馬にはこの橋が鬼門(きもん)なのだ。
ある日、そんな風にやっとの努力で渡って行った轍の音をききながら、ほっとして欄干(らんかん)をはなれようとすると、一人(ひとり)の男が寄って来た。(あわ)れな声で、針中野(はりなかの)まで行くにはどう行けばよいのかと、紀州訛(きしゅうなまり)できいた。渡辺橋から市電で阿倍野(あべの)まで行き、そこから大鉄電車で――と説明しかけると、いや、歩いて行くつもりだと言う。西宮までの電車賃はありましたが、あと一文もなく、朝から何も食べず、やっとここまで歩いてやって来ました、あと何里ぐらいありますか。半分泣き声だった。
思わず、君、失礼だけれどこれを電車賃にしたまえと、よれよれの五十銭(ぜに)を男の手に(にぎ)らせた。
それから三日()った夕方、れいのように欄干に(もた)れて、汚い川水をながめていると、うしろから声をかけられた。もし、もし、ちょっとお(うかが)いしますがのし、針中野ちうたらここから……()り向いて、あっ、君はこの間の――男は足音高く()げて行った。その方向から荷馬車が来た。馬がいなないた。彼はもうその男のことを忘れ、びっくりしたような苦痛の表情を馬の顔に見ていた。




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